東京高等裁判所 平成11年(ネ)5947号 判決
(原審・東京地方裁判所八王子支部平成一〇年(ワ)第六六一号〔甲事件〕、第六八四号〔乙事件〕)
控訴人(甲事件原告・乙事件被告) 大伸フード株式会社
右代表者代表取締役 山崎喜久男
右訴訟代理人弁護士 小林英明
同 井上浩
同 鳥山美由紀
被控訴人(甲事件被告・乙事件原告) 氏神博
被控訴人(甲事件被告・乙事件原告) 氏神節子
右両名訴訟代理人弁護士 橘田洋一
主文
原判決を次のとおり変更する。
一 控訴人は、被控訴人らに対し、それぞれ一九九万五〇〇〇円を支払え。
二 控訴人の請求及び被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人の負担とする。
四 この判決は、右一に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人らは、控訴人に対し、各五七五万五〇〇〇円及びこれらに対する平成一〇年四月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
五 仮執行宣言。
第二 事案の概要
甲事件は、控訴人が、平成九年一〇月一二日、被控訴人らに対し、別紙物件目録三記載の土地(以下「本件土地」という。)を、代金七四九〇万円、手付金三四七万円、違約金一四九八万円の約定で売り渡した(以下「本件売買契約」という。ただし、その内容は暫く措く。)ところ、被控訴人らが、手付金三四七万円を支払ったものの、その余の金員を文払わなかったので、催告の上、売買契約を解除した旨主張し、被控訴人らに対し、債務不履行に基づき、違約金一四九八万円から支払済みの手付金三四七万円を控除した一一五一万円の二分の一に当たる各五七五万五〇〇〇円宛及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年四月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であり、乙事件は、被控訴人らが、控訴人との間で、本件売買契約及び本件土地の宅地造成工事・給排水宅地引込工事契約(以下「本件宅地造成工事契約」という。)を締結し、本件売買契約の手付金として三七四万円を、本件宅地造成工事契約の契約時締結金として二五万円をそれぞれ支払ったところ、控訴人が、更地渡しの約定に反し、本件土地の別紙物件目録二記載の土地(以下「A土地」という。)との境界線に沿って境界線の内側にブロック塀(以下「本件ブロック塀」という。)を設置して引き渡そうとし、催告にもかかわらず、本件ブロック塀を撤去しないので、本件売買契約を解除し、これと共に本件宅地造成工事契約も解除された旨主張して、控訴人に対し、債務不履行に基づき、支払済みの手付金三七四万円、本件宅地造成工事契約の契約時締結金二五万円、違約金一四九八万円の合計一八九七万円の二分の一に当たる各九四八万五〇〇〇円の支払を求めた事案である。
原判決が、控訴人の甲事件請求を棄却し、被控訴人らの乙事件請求を全部認容したので、控訴人が控訴をした。
一 前提となる事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。)
1 控訴人は、平成九年一〇月一二日当時、本件土地を含む別紙物件目録一記載の土地を、佐藤道子から買い受けていたが、代金の支払が未了であったため、所有権移転登記を受けられないでいた(甲五、乙三の1ないし3)。
2 控訴人は、別紙物件目録一記載の土地をA土地、本件土地(B土地)及び別紙物件目録四記載の土地(以下「C土地」という。)の三区画に分けて建て売り住宅を建築して売却しようと計画していた(甲五)。
3 控訴人は、平成九年一〇月四日、A土地を第三者に売却した(証人三輪康二)。
4 被控訴人らは、平成九年一〇月当時、秋田県に在住していたが、事情により東京に転居することになり、被控訴人氏神節子の父である藤井純(以下「藤井」という。)に依頼するなどして世田谷区内の適当な土地を探していたところ、チラシを見て本件土地の存在を知り、控訴人が仲介を依頼していた株式会社ユニハウス(以下「ユニハウス」という。)に、本件土地のみを購入したい旨打診した(乙一三、一九)。
5 控訴人は、平成九年一〇月上旬ころ、ユニハウスから、本件土地のみの購入希望者がいる旨伝えられ、検討した結果、本件土地のみを売却することとし、同月一二日、被控訴人らとの間で、本件土地につき、同月一四日付けの土地売買契約書を作成して、要旨次のとおりの本件売買契約を締結した(甲一、乙一の1)。
(一) 売主 控訴人
(二) 買主 被控訴人ら
(三) 目的物 本件土地一一三・〇〇平方メートル
(四) 売買代金 七四九〇万円(一平方メートル当たり約六六万二八三一円)
(五) 手付金 三七四万円(以下「本件手付金」という。)を契約締結時に支払う。
(六) 残代金 七一一六万円(以下「本件売買残代金」という。)を平成九年一二月一九日限り、本件土地の所有権移転登記及び本件土地の引渡と引き換えに支払う。
(七) 違約金 売買代金の二〇パーセント相当額の一四九八万円(以下「本件違約金」という。)
(八) 契約締結場所 ユニハウス本店
6 控訴人と被控訴人らは、平成九年一〇月一二日、本件土地につき、同月一四日付け造成工事請負契約書を作成して、要旨次のとおりの、本件宅地造成工事契約を締結した(乙二)。
(一) 工事名 宅地造成工事
(二) 工事内容 宅地造成工事・給排水宅地内引込み工事一式
(三) 引渡時期 平成九年一二月一九日
(四) 代金 五〇〇万円(消費税二三万八〇九五円を含む)
(五) 支払方法 契約締結時二五万円
完成引渡時四七五万円
7 被控訴人らは、平成九年一〇月一四日までに、控訴人に対し、本件手付金三七四万円、本件宅地造成工事契約の契約時支払金二五万円の合計三九九万円を支払った。
8 控訴人と被控訴人らは、本件売買残代金支払期日である平成九年一二月一九日までに、控訴人が本件土地の所有権移転登記をすることが不可能となったため、本件売買残代金の支払並びに本件土地の所有権移転登記及び引渡を平成一〇年二月一九日に延期する旨合意した。
9 控訴人は、別紙物件目録一記載の土地につき、平成一〇年一月一二日、佐藤道子から、所有権移転登記を受け、同月二二日、右土地から本件土地を分筆した(分筆につき乙一四)。
10 被控訴人らは、平成一〇年二月一九日までに、本件売買残代金の支払をせず、他方、控訴人も本件土地の所有権移転登記及び引渡をしなかった。
11 控訴人は、被控訴人らに対し、平成一〇年二月二七日到達の内容証明郵便で、右書面到達後一週間以内に本件売買残代金及び本件宅地造成工事契約の残金を支払うよう催告した上(甲三)、同年三月一一日到達の内容証明郵便で(甲二の1、2)、被控訴人らの債務不履行を理由として、本件売買契約を解除し、本件違約金一四九八万円の支払を請求した。
12 被控訴人らは、控訴人に対し、平成一〇年三月五日到達の内容証明郵便で(乙六の1、2)、控訴人が本件土地とA土地との境界線に沿って本件土地の内側に本件ブロック塀を築造し、被控訴人らがこれを撤去するよう催告したにもかかわらず本件ブロック塀を撤去しないので、債務不履行を理由として、本件売買契約及び本件宅地造成工事契約を解除し、支払済みの本件手付金三七四万円、本件宅地造成工事契約の契約時支払金二五万円の合計三九九万円の返還及び本件違約金一四九八万円の支払を請求した。
13 控訴人は、その後の平成一〇年一一月二四日、第三者に対し、本件土地を売却し、所有権移転登記を経由すると共に、本件土地を引き渡した(甲六、乙一七)。
14 被控訴人らは、本件土地が第三者に売却されて所有権移転登記が経由されたことから、平成一二年三月二二日の当審第二回口頭弁論期日において陳述された同月一五日付準備書面をもって、履行不能を理由として、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした(記録上明らかである。)。
二 主たる争点及び当事者双方の主張
1 解除事由の存否
(一) 控訴人の主張
(1) 本件売買契約では、本件土地を更地で引き渡す旨の約定はなく、A土地及びC土地との境界線に沿って、境界の内側にブロック塀を築造する旨の合意が存在した(以下「内積みの合意」という。)。内積みの合意の存在は、以下の事実から明らかである。
<1> 控訴人は、本件土地を売却するに先立ち、A土地を第三者に売却したが、A土地の売買契約においては、A土地と本件土地との境界線(別紙図面のイ、ロ、ハの各点を順次直線で結んだ線〔以下、別紙図面の「イ点」「ロ点」等を単に「イ点」「ロ点」等と表示する。〕及びイ、への各点を直線で結んだ線)にブロック塀を内積みする旨の合意(A土地から見ると外積みする旨の合意)がされていた。したがって、A土地の売買契約後に締結された本件売買契約においては、内積みの合意ができていたと考えるのが自然である。
<2> 被控訴人は、本件土地上に建物を建築するため、図面(甲四、乙一〇)を作成しているが、右図面においては、A土地との境界線にブロック塀を内積みする旨表示されている。
<3> 控訴人の担当者三輪康二(以下「三輪」という。)及び仲介業者であるユニハウスの担当者新垣隆幸(以下「新垣」という。)は、本件売買契約締結の際、被控訴人らに対し、ブロック塀を内積みする旨説明している。
<4> 被控訴人氏神博(以下「被控訴人博」という。)は、平成一〇年一月一九日ころ、新垣から、ブロック塀を内積みすると初めて告げられた旨供述しているが、右供述は裏付け証拠のないものである上、新垣が、平成九年一一月下旬ころ、被控訴人らに対し、ブロック塀を内積みする旨伝えたところ、これに対し、被控訴人らが、既に同年一二月ころ、控訴人に抗議をしているのであるから、被控訴人博の前記供述は信用できない。
<5> 重要事項説明書及び契約書には内積みの合意が記載されていないが、二つの土地の境界線上にブロック塀を築造する場合、境界線上にブロック塀の厚みの中心がくるようにブロック塀を積むこと(以下「芯積み」という。)が多いものの、内積みすることもあり、特にこの点でもめたこともなかったことから、三輪において、重要事項説明書及び契約書に内積みの合意を記載する必要がないと判断して、これらに内積みの合意を記載しなかったものであり、重要事項説明書及び契約書に内積みの合意が記載されていないからといって、内積みの合意がされなかった根拠となるわけではない。
(2) 仮に、本件売買契約において、内積みの合意がされていなかったとしても、控訴人が本件土地に本件ブロック塀を内積みしたことについて債務不履行はない。すなわち、仮に、本件売買契約において、内積みの合意がされていなかったとしても、本件土地にブロック塀を設けること自体は契約の内容となっていた。そして、芯積みの合意がなかったことは被控訴人らも認めている。ところで、本件では、A土地のうちの本件土地の西南側境界に接するイ、ロ、ハ、ニ、ホ、イの各点を直線で結んだ範囲内の土地(以下「路地上部分」という。)には建物がなく、また、現状において建物を建築する余地もないから、民法二二五条の規定は適用がなく、被控訴人らとしては内積みするしか方法がなかった。さらに、仮に、西南側境界について民法二二五条の適用があるとしても、A土地の所有者との間で合意がない以上、境界線に芯積みをするためには、裁判手続きを経る必要があったのであるから、被控訴人らが芯積みを要求する権利は存在しなかった。
(3) 以上のとおり、控訴人が西南側及び北西側境界付近に、内積みの方法で本件ブロック塀を築造したことについては何らの債務不履行も存在せず、被控訴人らが本件売買残代金を支払わないことは許されないものであり、被控訴人らの本件売買残代金不払いは、本件売買契約の解除事由となるものである。
(二) 被控訴人らの主張
(1) 本件売買契約においては、本件土地を更地で引き渡すこととされていたものであり、内積みの合意は勿論のこととして、本件土地上にブロック塀を築造する旨の合意もなかった。控訴人が本件土地上にブロック塀を内積みする旨申し入れてきたのは平成一〇年一月に入ってからである。甲四及び乙一〇の図面は、ブロック塀を内積みする旨表示しているものではない。民法二二五条一項は、隣接する各土地の所有者は共同の費用で土地境界線上に囲障を設置することができるとしているところ、この原則を変更するのであれば、相隣者間の契約によるべきであり、相隣者以外の第三者がこの原則を変更するのであれば、その第三者は、無理、矛盾のない約定をして相隣者に申し送らなければならない。宅地建物取引業者たる控訴人が売主となり、宅地建物取引主任者が関与した取引である本件売買契約において、重要事項説明書や売買契約書に内積みの合意が記載されていないことからすれば、内積みの合意がされていないことは明らかである。
(2) 控訴人及びユニハウスは、控訴人がA土地を売却するに際し、ブロック塀を外積み(本件土地から見れば内積み)する旨の合意をしていたにもかかわらず、右合意を事前に告知すれば契約ができないことをおそれて、これを被控訴人らに事前に告知せず、本件売買契約を締結させたものである。ブロック塀が境界代わりになるのであれば、本件土地がブロック塀全部の負担を受ける理由はなく、また、本件土地を取得した後にA土地の所有者と境界問題でもめることは明らかであることを考慮すれば、控訴人に債務不履行があることは明らかである。
(3) 仮に、控訴人に更地渡しの合意との関係で債務不履行がなかったとしても、控訴人は、平成一〇年一一月四日、同日売買を原因として、本件土地につき、第三者に所有権移転登記手続をしたから、本件売買契約の控訴人の本件土地所有権移転債務は控訴人の責めに帰すべき事由により履行不能となった。
2 双方のした解除の有効性
(一) 控訴人の主張
(1) 控訴人は、本件売買契約の代金決済日である平成一〇年二月一九日の前である同年一月一二日、本件土地の所有権取得を済ませていた。また、本件土地上に存在した根抵当権に関しても、根抵当権設定登記の抹消費用の受領と同時に抹消登記の申請手続きができたのであり、控訴人としては、土地売買契約における売主として要求される履行をすべて行った。仲介業者であるユニハウスは、被控訴人らが、本件ブロック塀が内積みされたことを理由として売買代金の支払を明確に拒絶していたため、控訴人に対し、決済時間、決済場所を連絡することができず、そのため、控訴人は、決済日に決済の場に赴くことができなかったにすぎない。したがって、控訴人が被控訴人らの本件売買残代金の不払いを理由としてした解除は、有効である。
(2) 被控訴人らは、当審において、控訴人が第三者に本件土地を売却したことを理由として履行不能に基づく解除を主張しているが、本件土地の第三者への売却は、控訴人のした解除の後にされたものであるから、新たな解除事由とならないことは論を待たない。
(二) 被控訴人らの主張
(1) 被控訴人博及び藤井は、本件売買残代金の支払に備えて預金通帳(乙一八)を持参して、本件売買契約の代金決済日である平成一〇年二月一九日、代金決済場所であるユニハウスヘ赴いたが、控訴人が、内積みされた本件ブロック塀を撤去しておらず、所有権移転登記手続に必要な書類の提示もしなかったばかりか、ユニハウスに来ることすらしなかったため、本件売買残代金の支払をしなかった。なお、控訴人は、本件売買残代金の決済日当時、本件土地についてされた抵当権の抹消手続きもしていなかった。そこで、被控訴人らは、ユニハウスを通じて、ブロック塀を撤去し本件売買契約のとおり履行するよう申し入れたが、控訴人が事態を改善しないで放置したので、同年三月五日到達の書面で、控訴人に対し、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。右解除に基づき、本件売買契約と一体となって締結された本件宅地造成工事契約も解除となった。以上のように、控訴人のした本件売買契約の解除は、自らすべき履行の提供をしないでしたものであって解除の前提を欠き無効であり、被控訴人らのした本件売買契約の解除は、有効である。
(2) 控訴人は、平成一〇年一一月四日、同日売買を原因として、本件土地につき、第三者に所有権移転登記手続をしたから、本件売買契約の控訴人の本件土地所有権移転債務は履行不能となった。被控訴人らは、念のため、平成一二年三月二二日の当審第二回口頭弁論期日において陳述された同月一五日付準備書面をもって、控訴人に対し、履行不能を理由として、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。
3 被控訴人らの解除及び違約金の請求は信義則に違反するか
(一) 控訴人の主張
仮に、控訴人に債務不履行があるとしても、一方でブロック塀の築造が合意され、他方で芯積みの合意がされていない以上、控訴人としては本件ブロック塀を内積みにせざるを得なかったものであり、また、本件ブロック塀が不要であれば、これを撤去することは容易であり、かつ、撤去することに障害がなかったのみならず、そもそも本件ブロック塀が内積みされることにより減少する本件土地の有効面積は〇・四五パーセントにすぎず、被控訴人らが本件売買契約により達成しようとした居住用建物の建築の目的は何ら阻害されることはないのである。また、控訴人は、有効面積の減少について、代金減額の提案を行うなど誠実に対応している。これらの事情を考慮すれば、被控訴人らが、本件売買契約を解除すること、解除した上、売買代金の二割に相当する違約金の支払を請求することは、いずれも信義則に違反し許されない。
(二) 被控訴人らの主張
控訴人は、本件売買契約締結時に、被控訴人らに対し、内積みの合意を説明せず、ブロック塀を内積みすることを本件売買契約の条件にしないでおきながら、本件売買契約締結後二か月も経過した後に、内積みの合意を持ち出して、本件ブロック塀の内積みを強行し、本件売買契約の内容と異なった状況で本件土地の引渡を強いたものである。控訴人は、本件土地が本件ブロック塀により受ける負担が〇・四五パーセントである旨主張するが、その根拠は不明であり、また、本件ブロック塀の厚さを一〇センチメートルとすれば、その長さが約三三メートルであるから、その面積は三・三平方メートルであり、価額は二〇〇万円を上回るものであり、決して軽微な問題ではない。また、被控訴人らが、本件土地を購入後、本件ブロック塀を取り壊すことは、本件土地にブロック塀を内積みにすることを条件としてA土地を購入したA土地所有者に喧嘩を仕掛けるようなものであってとてもできるものではない。さらに、控訴人は、解除の要件すら整えることなく違約金の請求をし、被控訴人らに拒絶されるや甲事件を提起した上、その後、本件土地を第三者に売却しているのである。以上の事実を考慮すると、被控訴人らの解除及び違約金の請求が信義則に反し許されないということはない。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所は、以下のとおり、控訴人の請求は理由がなく、被控訴人らの請求は、控訴人に対し、支払済みの本件手付金三七四万円及び本件宅地造成工事契約の契約時締結金二五万円の合計三九九万円の二分の一に当たる各一九九万五〇〇〇円の支払を求める限度で認容すべきであり、その余は棄却すべきであると判断する。
1 争点1(当事者が主張する解除事由の存否)について
(一) 本件売買契約において、本件土地を更地渡しにするとの合意が存したかについて
(1) 本件売買契約に関し作成された売買契約書(甲一、乙一の1)、重要事項説明書(乙三の1ないし3)には、擁壁を造るとの条項は存在せず、かえって、売買契約書には、第七条に「売主は、前条の所有権移転の時期までに、その責任と負担において本物件につき、先取特権、抵当権、賃借権その他名目形式の如何を問わず、買主の完全な所有権の行使を阻害する一切の負担を除去抹消しなければなりません。」との記載があり、重要事項説明書の「10 工事完了時の形状・構造等」欄に擁壁が無い旨記載されていることを考慮すると、契約書の草案段階では本件土地上にブロック塀等の擁壁を造らず、本件土地を更地で引き渡すことが予定されていたと認められる。
(2) 本件売買契約は、契約書等の日付は平成九年一〇月一四日付けとなっているが、実際には、同月一二日、ユニハウスの池尻支店で締結された。契約の現場には、三輪、新垣、被控訴人博のほか、同人から依頼を受けたナイスハーティホーム株式会社の取締役設計企画部長安藤祐二(以下「安藤」という。)が参集した(証人三輪、同新垣、同安藤、被控訴人博本人尋問の結果)。
本件売買契約締結現場であるユニハウスの池尻支店に参集した者のうち、安藤は、新垣、被控訴人博及び安藤において、本件売買契約締結に先立ち、新垣の運転する自動車で本件土地を検分したが、その際、後部座席に被控訴人博と一緒に座っていた安藤が、新垣に対し、「ブロックは芯積みですね。その費用は、どうなるのですか。」と質問したところ、新垣が「私に任せて下さい。」と答えた旨、調印の時、三輪に対し、同じ質問をしたところ、三輪が「A区画は建売なので、こちらの方で、ブロックとフェンスの費用はみます。」と回答し、さらに、安藤が、「フェンスのグレードアップしたらどうしますか」と聞くと、三輪が「A区画を買った人と相談して決めて行きましょう」と回答したと証言する。右証言は、結局、芯積みの合意がされた旨の証言であるが(なお、安藤は、芯積みの合意ができたとまでは供述していない。)、本件売買契約の締結に際し、当事者間において、本件土地上にブロック塀を築造することが話し合われたことを示すものである(証人安藤)。
また、三輪は、本件売買契約締結の前に、ユニハウスの池尻支店において、新垣が、被控訴人博に対し、図面を提示しながら、鉛筆かボールペンを使用してブロック塀を内積みする旨説明した旨証言しており、また、三輪も、本件売買契約締結前に、被控訴人博に対し、図面を用いて、ペンでブロックを積む場所をなぞってブロック塀を内積みする旨伝えた旨証言する。
右のように、安藤、三輪、新垣の三者とも、ブロック塀を芯積みするか内積みするかはともかくとして、本件土地上にブロック塀を築造すること自体は話に出た旨証言していることを考慮すると、本件売買契約については、契約書等に記載はないが、ブロック塀を築造することが合意されていたというべきである。
(3) 以上のとおり、本件売買契約においては、契約書等に記載はないが、ブロック塀を築造することが合意されていたというべきであるから、更地渡しの合意であった旨の被控訴人らの主張は採用することができない。
(二) 内積みの合意の有無について
本件全証拠によるも、本件売買契約締結に当たり、控訴人と被控訴人らとの間で内積みの合意がされたと認めることはできない。すなわち、三輪及び新垣は、内積みの合意ができた旨の控訴人の主張に沿う供述をするが、三輪及び新垣の供述には細部に齟齬があるほか、右各供述を裏付ける客観的な証拠がないこと、被控訴人らが、本件土地に本件ブロック塀が内積みされていることを知るや直ちに異議を述べていることを考慮すると、三輪及び新垣の前記供述のみで内積みの合意が成立したと認定することはできないというべきである。
なお、控訴人は、本件土地を売却するに先立ち、A土地を第三者に売却したが、A土地の売買契約においては、A土地と本件土地との境界にブロック塀を内積みする旨の合意(A土地から見ると外積みする旨の合意)がされていたから、その後に締結された本件売買契約においては、内積みの合意ができていたと考えるのが自然である旨主張するが、被控訴人らと直接交渉をしていたのは、控訴人の担当者三輪ではなく、ユニハウスの担当者新垣であり、新垣が、本件売買契約当日、初めて三輪から内積みの合意を聞かされていた旨供述していることからすれば、必ずしも、控訴人の意向が新垣を通じて被控訴人らに伝えられていたとも言い難い面があり、A土地についてブロック塀を外積みする旨の合意ができていたことをもって、本件土地について内積みの合意が成立していたことを認めることはできない。
さらに、控訴人は、甲第四号証及び乙第一〇号証の各図面には、A土地との境界線にブロック塀を内積みする旨表示されていると主張するが、右各図面は、概略図であり、これを精査しても、本件土地上にブロック塀を内積みするのか芯積みするのかを判読することはできない。そして、他に、内積みの合意を認めるに足りる的確な証拠は存在しない。
(三) 芯積みの合意について
芯積みの合意があったことは、被控訴人らも主張していないが、念のため判断するに、証人安藤の証言中には、右(一)(2)のとおり、本件売買契約の際、新垣及び三輪がブロック塀を芯積みする旨述べていた旨の供述部分が存するが、そのような話が出たとすれば、A土地の売買に当たって、控訴人の担当者として外積みの合意をしていた三輪とすれば、芯積みには応じられない旨述べているはずであり、この点を巡って控訴人側と被控訴人ら側との間で何らかの応酬がされてしかるべきであるが、そのような応酬がされた形跡は存在しないし、安藤も、芯積みの合意ができたとまでは供述していない。そして、控訴人が、その後、本件土地上に本件ブロック塀を内積みしたことをも併せ考慮すれば、本件売買契約については、A土地及びC土地と本件土地を区画するため、本件土地との境界線付近にブロック塀を築造する旨の合意はできたが、ブロック塀を内積みするか、芯積みするかについて明確な合意はされなかったと言わざるを得ない。
(四) ブロック塀を築造する位置について
以上のとおり、本件売買契約においては、ブロック塀を内積みするか、芯積みするかについて明確な合意はされなかったというべきところ、以下のとおり、被控訴人らは、本件土地とA土地及びC土地との境界については、内積みにすることができるのみであって、芯積みにすることはできない状況であったというべきである。
(1) 本件土地とA土地及びC土地との境界についてどのような位置にブロック塀を築造するかについては、本件売買契約締結当時、A土地の前所有者でありC土地の所有者であった控訴人と被控訴人らとの間に明確な合意がされておらず、また、控訴人からA土地を買い受けた第三者と被控訴人らとの間でブロック塀の築造位置についての合意ができていた形跡もないから、民法二二五条一項、二二八条により、ブロック塀の築造位置は、A土地及びC土地の建築予定の建物と本件土地の建築予定の建物との間の空地部分の境界線であるイ、へ、トの各点を順次直線で結んだ線については、第一に慣習により決することになり、慣習が存在しない場合には共同の費用をもって境界線上に囲障を芯積みすることになり、A土地の所有者が、共同の費用をもってブロック塀を芯積みすることに同意しない場合には、囲障(ただし、その材質形状は同法二二五条二項による。)を芯積みすることを訴求することができることになる。
これに対し、本件土地とA土地の路地上部分との境界線であるイ、ロ、ハの各点を直線で結んだ線については、路地上部分に建物が存在せず、民法二二五条に規定する「二棟ノ建物カ所有者ヲ異ニシ且其間ニ空地アルトキ」の要件を満たさないから、A土地の所有者との間に合意ができない限り、イ、ロ、ハの各点を直線で結んだ境界線上にブロック塀を芯積みすることはできないというべきである。被控訴人らは、右境界線についても、民法二二五条一項の適用がある旨主張するが、同条は、所有者が異なる二棟の建物について、建物所有者の利益を調整し、相互の家宅内の秘密と安全の維持を目的とし、二棟の建物の間に空地があるときは目隠し等のため囲障を設置するというものであるから、一方の土地(路地上部分)に建物が建っていない本件のような場合には適用の余地がなく、したがって、この点での被控訴人らの主張は採用することができない。
(2) そこで、A土地及びC土地の建物と本件土地の建物との間の空地部分の境界線(イ、ヘ、トの各点を順次直線で結んだ線)について、囲障設置位置についての慣習があるか否かについて判断するに、本件全証拠によるも、右慣習を認めることはできない。すなわち、控訴人の担当者三輪が本件土地のような売買では、土地の境界にブロック塀を芯積みするのが普通である旨供述し、また、ユニハウスの担当者新垣も一般的には芯積みすることが多い旨供述しているが、他方では、内積みすることもある旨供述しているのであって(証人三輪、同新垣)、三輪及び新垣の供述のみをもって芯積みの慣習を認めることはできず、他に、これを認めるに足りる的確な証拠は存在しない。また、本件では、被控訴人らが、A土地の所有者から、ブロック塀を芯積みすることについて同意を得ていないから、当然にはイ、への各点を直線で結んだ線に芯積みする権利を有していなかったといわざるを得ない。
(五) 債務不履行の存否について
以上の事実によれば、控訴人は、本件売買契約により、本件土地とA土地及びC土地との境界線にブロック塀を内積みすべきであったことになり、この点で控訴人に債務不履行があったとは認められない。
他方、被控訴人らは、売買代金の決済期日に、交渉がまとまれば売買残代金を支払うために必要な資金を調達する準備をして、代金決済場所であるユニハウスに赴いたが、控訴人が、ユニハウスに来なかったため、本件売買残代金の支払もしなかったことを考慮すると(乙一八、一九、証人三輪)、被控訴人らに債務不履行があったとも認められない。
なお、三輪の陳述書(甲七)には、控訴人側では同年二月一九日の本件売買残代金決済の場所及び時間が分からず、ユニハウスに連絡しても明確な回答を得られなかったため本件売買残代金決済期日にユニハウスへ行くことができなかった旨の陳述部分が存するが、もともと本件売買契約がユニハウスにおいて締結されており、そのため、被控訴人らも代金決済の場所がユニハウスであると考えてユニハウスに赴いていることからすれば、代金の決済は、当初から、ユニハウスに集合してされる約定になっていたと認められ、したがって、この点での三輪の陳述はたやすく信用することができない。
(六) 履行不能の存否について
前記第二、一前提となる事実12記載のとおり、控訴人は、平成一〇年一一月四日、第三者に対し、本件土地を売却し、同日売買を原因として、所有権移転登記手続を経由したから、本件売買契約の控訴人の本件土地所有権移転債務は履行不能となったというべきである。
2 争点2(双方のした解除の有効性)について
(1) 控訴人のした解除について
右1で認定したとおり、控訴人が本件土地上にブロック塀を内積みしたことについては控訴人に債務不履行責任がなく、被控訴人らは、控訴人に対し、売買代金支払期日である平成一〇年二月一九日に本件売買残代金を支払うべき義務が存したというべきである。
ところで、被控訴人博及び藤井は、控訴人がA土地との関係では、事前の交渉で、本件土地に本件ブロック塀を内積みすることを撤回せず、そのため本件売買契約の本旨に従った履行を受けることはできないと考えていたが、念のため、売買残代金の支払に備えて、藤原の預金通帳(残高三八〇〇万円余りで、他に定期預金九六〇〇万円が記載されたもの。乙一八)を持参して、本件売買契約の代金決済日である平成一〇年二月一九日、代金決済場所であるユニハウスヘ赴いたところ、控訴人が、本件土地についてされた抵当権の抹消手続きをせず、所有権移転登記手続に必要な書類の提示もしなかったばかりか、ユニハウスに来ることすらしなかったため、本件売買残代金の支払をしなかったことが認められる(甲一、乙一の1、四、一二の1ないし9、一三、一八、一九)。
そうすると、被控訴人らは、控訴人に対し、本件売買残代金支払についての履行の提供をしたというべきであり、被控訴人らには本件売買残代金を不払いした債務不履行はないから、控訴人のした解除は無効である。
(2) 被控訴人らのした解除について
<1> 被控訴人らは、本件売買契約には更地渡しの合意がされており、控訴人が右合意に反し本件ブロックを内積みしたことを理由として、本件売買契約を解除したものであるが、前記1のとおり、本件売買契約において更地渡しの合意がされたことを認めることができず、この点で控訴人に債務不履行は存在しないから、被控訴人らのした右解除は無効である。
<2> 前記第二、一前提となる事実12記載のとおり、控訴人は、平成一〇年一一月四日、第三者に対し、本件土地を売却し、同日売買を原因として、所有権移転登記手続をしたところ、被控訴人らは、平成一二年三月二二日の当審第二回口頭弁論期日において陳述された同月一五日付準備書面をもって、控訴人に対し、本件土地所有権移転義務の履行不能を理由として、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした(記録上明らかである。)。したがって、本件売買契約は、有効に解除されたというべきである。
<3> 本件宅地造成工事契約は、控訴人が、本件土地譲渡に伴う経費の削減等を意図して、被控訴人らと締結したものであり、実質は、本件売買契約と一体となった契約であると認められる(乙一三、証人安藤)。したがって、本件売買契約が解除されたことにより、本件売買契約と一体となって締結された本件宅地造成工事契約も解除されたというべきである。
3 争点3(被控訴人らの解除及び違約金の請求は信義則に違反するか)について
(一) 控訴人は、仮に、控訴人に債務不履行があるとしても、被控訴人らが、本件売買契約を解除すること、解除した上、売買代金の二割に相当する本件違約金の支払を請求することは、いずれも信義則に違反し許されない旨主張する。
ところで、控訴人が、本件ブロック塀を内積みしたことについてはもともと債務不履行がないこと、しかも、控訴人は、本件ブロック塀を内積みするか否かで被控訴人らと紛争になって以後、C土地との関係でブロック塀を芯積みし、本件土地の有効利用面積を増やす案を提示し、実際にも、そのように実行するなど、誠実に被控訴人らに対応していること、本件ブロック塀は境界を示すものではなく(別に境界標が設置されている。)、本件ブロック塀が内積みされることにより、被控訴人らに対し、本件土地の境界が不明確になるなどの不利益を及ぼすものではないこと(甲五、乙九、一二の1ないし9)、他方、控訴人がA土地の購入者との間で外積み(本件土地から見て内積み)の合意をしたにもかかわらず、被控訴人らに対し、右合意を事前に十分説明せず、本件紛争の原因を作っていることに加えて、控訴人が、その後、本件土地を第三者に売却し、資金を回収していることなどの事実を勘案すると、被控訴人らが本件売買契約を解除したことをもって信義則に反するとはいえないが、さらに、本件売買契約における売買代金の二割にものぼる本件違約金の支払を請求することは、控訴人に過酷な負担を強いるものであり、信雄則に反し許されないというべきである。なお、被控訴人らは、控訴人が、A土地を売却するに際し、A土地所有者との間で、ブロック塀を外積み(本件土地から見れば内積み)する旨の合意をしていたにもかかわらず、右合意を事前に告知すれば契約ができないことをおそれて、これを被控訴人らに事前に告知せず、本件売買契約を締結させた旨主張するが、控訴人の担当者三輪は、殆ど被控訴人ら側と交渉をしておらず、交渉をしていたのはユニハウスの担当者新垣であるところ、三輪が、新垣に対し、A土地所有者との外積みの約束があるため、被控訴人らに対し、内積みの合意をしてもらうよう話をしていたことにかんがみれば(証人三輪)、三輪と新垣との意思疎通が十分でなかったことはともかくとして、控訴人が、A土地所有者との間で外積みの合意をしていたことを故意に隠したと認めることはできず、被控訴人らの、この点での主張は採用することができない。
二 以上の次第で、控訴人の請求は理由がなく、被控訴人らの請求は、控訴人に対し、支払済みの本件売買契約の手付金三七四万円及び本件宅地造成工事契約の契約時締結金二五万円の合計三九九万円の二分の一に当たる一九九万五〇〇〇円の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
よって、右と結論を一部異にする原判決は一部不当であるから、原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 小林正 裁判官 萩原秀紀)
別紙 物件目録<省略>
別紙図面<省略>